
充実する受刑者就労支援体制
2025年にWOWOWで放送され話題となったドラマ『塀の中の美容室』は、実在する刑務所内の美容室をモデルにした作品です。
ドラマでは「あおぞら美容室」という名称になっていますが、原作は桜井美奈による同名作品『塀の中の美容室』で、岐阜県の笠松刑務所にある「みどり美容院」がモデルとされています。
日本の刑務所は法務省矯正局が所管・運営しており、刑事施設では受刑者の更生と円滑な社会復帰を目的として、さまざまな職業訓練が行われています。
その職業訓練のなかには、美容師免許の取得を目指す美容科、理容師免許の取得を目指す理容科があります。また美容関連では、美容総合技術科が設けられており、エステティックの国際資格(IEA)やネイルの資格(JNA)などを取得することもできます。
法務省の資料「受刑者就労支援体制等の充実」では、訓練生(受刑者)の選定基準についても示されています。選定にあたっては、本人の希望があることに加え、刑期が必要な訓練期間を上回っていることが前提条件となります。理容科や美容科を希望しても、刑期が1~2年程度と短い場合は受講できないことがあります。その場合には、比較的短期間で資格取得が可能なエステティックやネイルなどの訓練が検討されます。
さらに、健康状態や更生意欲の高さなども重要な判断材料となります。職種によっては適性検査も行われます。理容科、美容科、美容総合技術科の訓練生に選ばれる人は、受刑者のなかでも特に更生意欲の高い人が選ばれるといわれています。
具体的な教育訓練の詳細は公表されていない部分もありますが、刑事施設での訓練であっても、資格取得に特別な優遇措置があるわけではありません。一般の養成施設と同様の教育を受け、国家試験に合格する必要があります。場合によっては、すでに社会復帰しサロンで働いている理容師や美容師が指導にあたることもあるといわれています。
施設内のサロンは、一般の理美容室よりやや低めの料金に設定されています。利用する客は近隣住民のほか、施設関係者やボランティア活動をしている人などで、訓練生の更生を応援する気持ちを持った人が多いようです。
もちろん、施術は有資格の技術者が行い、資格取得前の訓練生は助手として作業を補助しながら技術を学びます。この点は一般のサロンと大きく変わりません。
『塀の中の美容室』も「社会を生きる女性たちの再生の物語」として描かれていますが、実際の刑務所内の理美容室でも、利用者と訓練生、そして理容師・美容師との心温まる交流が生まれている様子がSNSなどでも紹介されています。
髪結の時代からあった職業訓練
刑事施設における職業訓練の歴史は古く、訓練内容は時代とともに変化してきました。現在ではIT関連の訓練科も設けられています。そのなかで、最も古い部類に入るのが理容です。その源流は、丁髷の時代である江戸時代にまでさかのぼります。
18世紀末の寛政年間には、無宿者などの軽犯罪者を収容した施設として「人足寄場(にんそくよせば)」が設けられました。そこでは米つきや油絞りなどの作業とともに、髪結の仕事も行われていたことが記録されています。人足寄場は現在の刑事施設に近い性格を持つ施設であり、理髪・髪結が早い時期から施設内で行われていたことがわかります。
明治維新後も、刑事施設(当時は監獄と呼ばれました)で理髪が行われていたことは、明治5年に制定された「監獄則」から確認できます。明治・大正期は理髪に公的資格制度が存在しない時代でしたが、刑事施設の内部では理髪が必要な作業として続けられていました。
ただし当時の理髪は、現在のような更生のための職業訓練というよりも、収容された囚人の頭髪を衛生上の理由から短く刈り込むことが主な目的だったと考えられます。江戸時代の人足寄場における髪結も、同様に収容者の生活管理の一環として行われていた可能性が高いようです。
もっとも、施設内で習得した理髪の技術を、出所後の生業として生かした人も少なからずいたと考えられます。正式な職業訓練として制度化される以前から、刑事施設が技能習得の場となっていた側面もあったといえるでしょう。
法務省の資料「受刑者就労支援体制等の充実」では、現在の職業訓練科目の一覧のなかで最初に理容科が挙げられています。こうした長い歴史的背景が、その理由の一つにあるのかもしれません。
なお、女性の結髪である女髪結や、現在の美容にあたる技術については、戦前の刑事施設ではほとんど行われていなかったとされています。女性受刑者の数が男性に比べて非常に少なかったことに加え、当時の女性の髪型は自分や家族で整えることが一般的だったことも理由の一つと考えられています。
美容科・理容科・美容総合技術科がある主な刑事施設
(2026年3月現在)
美容科
- 和歌山刑務所(白百合美容室)
- 笠松刑務所(みどり美容院)
- 栃木刑務所(ニューあさひ美容室)
理容科
- 川越少年刑務所
- 函館少年刑務所
- 松山刑務所
- 佐賀少年刑務所
美容総合技術科
- 笠松刑務所(介護エステ、セラピスト、ネイル、メイクなど)
- 栃木刑務所(エステ)
- 喜連川社会復帰促進センター(JNAジェルネイル技能検定〈JNA〉)
なお、以前は奈良少年刑務所にも理容科があったとされていますが、現在は廃止されたようです。
世の中には心に傷を抱えている人もいれば、身体に傷を負った人もいます。そして服役という過去を背負った人もいます。しかし多くの人が、それぞれの場所で懸命に生きています。理美容の技術を通じて社会復帰を目指す人たちの努力を、社会全体で応援していきたいものです。

