指数の「重さ」を表すウエイト
国の基幹統計である第3次産業活動指数や消費者物価指数(CPI)には、調査対象の産業や品目ごとに1万分比によるウエイトが設定されています。ウエイトとは、各指数における影響度や重要度を示す指標であり、言葉どおり指数の中での「重さ」を表すものです。
第3次産業活動指数のウエイトは、第3次産業全体に占める各産業の重要度を示し、CPIのウエイトは家計支出における各品目の重要度を示します。
例えば第3次産業では、氷雪業の売上が半減した場合とIT関連産業が半減した場合とでは、産業全体への影響は大きく異なります。CPIでも、鉛筆の価格が倍になる場合とガソリン価格が倍になる場合とでは家計への影響は同じではありません。この違いがウエイトとして表れ、一般に鉛筆よりガソリンの方が大きなウエイトを占めます。
ウエイトは原則として5年ごとに見直され、産業連関表や家計調査などの基礎資料に基づいて改定されます。その年が指数の基準年として採用されます。
ウエイトの推移を追うことで、第3次産業活動指数からは理容業・美容業がサービス産業の中でどのような位置を占めてきたかが分かります。またCPIからは理美容関連支出が家計の中でどのように変化してきたかを読み取ることができます。
第3次産業活動指数からみた理美容業
| 基準年 | 理容業 | 美容業 | 計 |
|---|---|---|---|
| 1990年 | 23.8 | 44.1 | 67.9 |
| 1995年 | 22.6 | 53.1 | 75.7 |
| 2000年 | 20.3 | 54.4 | 74.7 |
| 2005年 | 18.2 | 56.4 | 74.6 |
| 2010年 | 16.5 | 53.6 | 70.1 |
| 2015年 | 14.5 | 50.5 | 65.0 |
| 2020年 | 9.0 | 40.8 | 49.8 |
1990年から2020年までのウエイト推移を見ると、理美容業の相対的な存在感は大きく変化しています。
理容業は23.8から9.0へと半分以下に減少しました。一方、美容業は44.1から40.8へとやや減少しています。理美容業合計では67.9から49.8へと低下しています。
1990年当時は「男性は理容室、女性は美容室」という棲み分けが比較的明確で、理容業の存在感は現在の約2.6倍もありました。その後は一度も反転することなく一貫して減少しています。
理容業のウエイト低下の背景には、低価格カット店の台頭、男性客の美容室利用の拡大、店舗数の減少など複数の要因があると考えられます。理容師志望者の減少傾向も続いており、今後もウエイトの低下が続く可能性があります。
美容業のウエイトは1990年から2005年にかけて44.1から56.4へと大きく拡大しました。1990年代後半のカリスマ美容師ブームや男性客の増加などが影響したと考えられます。2005年頃が美容業の相対的影響力のピークだったといえるでしょう。
その後は緩やかな減少に転じ、2020年基準では40.8となりました。特に2015年基準から2020年基準への改定では大きな低下が見られますが、これは2020年がコロナ禍の影響を強く受けた年であり、産業連関表における付加価値額が一時的に減少したことが背景にあると考えられます。
理美容業のウエイトは30年間で低下しましたが、これは必ずしも業界の衰退を意味するものではありません。IT関連サービス、医療・福祉、物流など他のサービス産業が急速に拡大した結果、相対的な比率が低下したと理解するのが妥当です。
サービス業全体を10,000とした場合の理美容業のシェアが縮小したという意味であり、業界規模そのものが大幅に縮小したわけではありません。
なお、理容業と美容業を合わせたウエイトは1995年頃の75.7が最大であり、この時期が業界全体の相対的影響力のピークだったと考えられます。
消費者物価指数(CPI)からみた理美容支出
| 基準年 | 理髪料 | パーマ代 | カット代 | ヘアカラー代 | エステ料 | 理美容用品 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1990年 | 34 | 26 | 20 | - | - | 102 |
| 1995年 | 28 | 22 | 31 | - | - | 108 |
| 2000年 | 26 | 19 | 32 | - | - | 117 |
| 2005年 | 23 | 14 | 31 | - | - | 112 |
| 2010年 | 20 | 10 | 29 | 8 | 4 | 120 |
| 2015年 | 17 | 7 | 27 | 11 | 4 | 130 |
| 2020年 | 13 | 5 | 25 | 10 | 4 | 144 |
CPIのウエイトからは、家計支出における理美容関連支出の変化が読み取れます。
1990年から2020年までの推移を見ると、
理髪料 34 → 13
パーマネント代 26 → 5
カット代 20 → 25
ヘアカラー代 8 → 11(2010年以降)
エステティック料金 4(2010年以降)
となっています。
理髪料は理容室における総合調髪などを示す項目です。このウエイトは1995年の28から2020年には13へと半分以下に減少しました。男性の美容室利用の拡大や低価格カット店の普及が背景にあります。
美容室のカット代は1990年の20から2000年には32まで増加しました。カット&ブローの定着や男性客の増加が影響したと考えられますが、その後はやや低下しています。
かつて美容室の中心メニューだったパーマネント代は1995年の22から2020年には5まで減少しました。パーマ利用者の減少により、美容室を「パーマ屋さん」と呼ぶこともほとんどなくなりました。
これに代わって伸びたのがヘアカラー代です。2010年から独立項目となったヘアカラー代はパーマネント代の約2倍の影響力を持つまでになりました。ただし2020年はコロナ禍の影響でやや減少しています。
2010年から調査対象となったエステティック料金はウエイト4で安定しています。かつては一部の富裕層向けと見られていましたが、一般的な家計支出として定着したことがうかがえます。
理美容サービスのウエイトが伸び悩む一方で、「理美容用品(シャンプー・化粧品・整髪料など)」のウエイトは約100台前半から140台へと大きく増加しています。家庭内でのセルフケアへの支出が増えていることを示しています。
日本経済の変化との関係
1990年代後半以降、日本の名目GDPはおおむね500兆円前後で推移していますが、その構成は大きく変化しています。
1990年には6割程度だったサービス業の比率は現在では7割を超え、日本経済の大部分を占めるようになりました。一方で製造業や建設業の比率は低下しています。
医療・福祉や情報通信などの成長によってサービス業の比重は増加しましたが、その中で理美容業の相対的シェアは縮小しました。
2020年はコロナ禍の影響により対面型サービスは大きく落ち込みました。理美容業も例外ではなく、回復は進んでいるものの統計上はコロナ前の水準に戻った程度にとどまっています。
ウエイトの正しい見方
第3次産業活動指数とCPIはいずれもウエイトを用いますが、その意味は大きく異なります。
CPIのウエイトは「家計の視点」を示します。一般家庭が生活費の中でどれだけ支出しているかを表す指標です。
一方、第3次産業活動指数のウエイトは「産業の視点」を示します。サービス業全体の付加価値の中でその産業がどれだけの規模を占めているかを表しています。
同じ理容業でも、
CPIのウエイト低下は
「家計の中で理容支出の優先順位が下がった」
第3次産業活動指数のウエイト低下は
「日本経済の中で理容業の相対的規模が縮小した」
ことを意味します。
CPIは「消費者の暮らしの記録」、第3次産業活動指数は「産業構造の勢力図」と考えると理解しやすいでしょう。
まとめ
1990年から2020年にかけて、理美容業のウエイトは総じて低下してきました。しかしこれは業界の衰退というより、日本経済のサービス化と産業構造の変化を反映した結果です。
総合調髪やパーマネントといった従来型サービスは縮小しましたが、ヘアカラーやエステティックなど新しい需要は伸びています。高付加価値サービスとしての側面も強まっています。
ウエイトの変化は社会や経済の変化を映す鏡です。理美容業を含む対人サービスは、変化する需要に対応し続けることで今後も成長の可能性を持っています。
一方で、過去の成功体験に依存したままでは、緩やかな縮小を避けることは難しいでしょう。統計のウエイトは、理美容業が変化を求められていることを静かに示しています。

