薄毛対応の国内市場はすでに5,000億円規模に達しており、2030年には6,000億円を超えるといわれています。理美容室でも、予防的なスキャルプマッサージを育毛メニューとして提供するサロンはありますが、薄毛市場全体に占める割合はごくわずかです。

薄毛市場には、かつらや増毛といった分野も含まれますが、市場を牽引しているのは育毛剤と医療分野です。とくに医療系の伸長が著しい。見た目で補う「装着型」の対策から、髪の毛を生やす・再生させる医療へとシフトしている背景には、医療技術の進歩と、一定の効果が確認されていることがあります。
医療分野の薄毛治療は、大きくAGA治療、外科的治療、再生医療に分けられます。いずれも「毛を増やす・再生させる」という直接的なアプローチです。2026年現在、最も注目されているのは再生医療です。
AGA治療が薄毛市場拡大に貢献
AGA治療は、フィナステリドやデュタステリドによる抜け毛抑制、ミノキシジルによる発毛促進を目的とした内服・外用治療が中心です。効果には個人差があり、通常毛に近い改善が見られる人もいれば、産毛が生える程度にとどまる人、効果がほとんど見られない人もいるとされています。それでも、産毛レベルの変化でも当事者にとっては大きな希望になるケースが少なくありません。
一方で、副作用のリスクもあるため、専門医の診察・管理のもとでの治療が前提となります。長期継続が必要で、費用は月5,000円程度からといわれています。
近年はオンライン診療の普及により、20〜30代の若年層が予防目的で早期に治療を始めるケースが増えています。また、サブスクリプション型の比較的安価な治療プランの普及も、市場拡大を後押ししています。
外科的治療は、後頭部などの健康な毛包を薄毛部位に移植する手術です。FUE法など、ロボット支援による高精度な植毛技術が進化しています。かつて行われていた人工毛移植とは異なり、拒否反応がなく、効果の高い治療として評価されています。
ただし、費用は高額で、100万〜200万円程度かかるとされています。また、移植した毛は長期間定着しますが、永久ではなく、将来的に再度の治療が必要になる可能性がある点も課題です。
再生医療は多様な療法が存在
再生医療は最も注目されている分野ですが、現時点では一部が実施段階にあり、多くは開発途上という位置付けです。
現在主流となっているのはエクソソーム治療です。エクソソームとは、成長因子やRNAなどの「発毛の指令(シグナル)」を含む、細胞から放出される微小なカプセル状物質です。幹細胞を培養した際に得られる培養上清からエクソソームを抽出し、頭皮に注入します。
これが弱った毛包に作用し、細胞分裂の促進や炎症抑制を通じて、休止期の毛根を再び成長期へ導く仕組みとされています。幹細胞培養上清液治療や培養Cup細胞注入療法など、複数の手法が存在します。
現段階では、効果は産毛が生える程度にとどまるケースが多いとされますが、AGA治療と併用することで効果を高める治療も行われています。
一般的なエクソソーム治療の効果持続期間は3〜6か月程度で、費用は20万〜60万円前後です。培養Cup細胞注入療法は200万円を超える高額治療ですが、比較的効果が持続するといわれています。いずれにしても、費用対効果の面では課題が残ります。
エクソソーム治療に代わる再生医療として注目されているのが、自家細胞移植です。後頭部などの健康な頭皮を数ミリ採取し、専用機器で細かく処理して、成長因子や前駆細胞を含む懸濁液を作成し、薄毛部位に注入します。この手法はマイクログラフトと呼ばれます。自分の細胞を使用するため、アレルギーリスクが低いとされ、実用化が進めば有望な治療法の一つになると期待されています。
最も注目される「完全培養毛包移植療法」
さらに研究段階にあるのが、わずかな毛包から毛乳頭細胞などを取り出し、専門施設で数千万〜数億個にまで培養・増殖させて頭皮に戻す培養細胞移植です。「完全培養毛包移植療法」とも呼ばれ、2026年現在、日本が世界をリードしている研究分野とされています。
AGA治療は毛根が残っていることが前提ですが、この治療は毛根そのものを増やせる可能性があり、究極の薄毛治療といわれています。ただし、30年以上前から「5年後に実用化」と言われ続けており、研究者自身が「5年後オオカミ少年」と自嘲するほど実現は困難です。
最大の理由は、毛周期(ヘアサイクル)の仕組みが完全に解明されていない点にあります。上皮系幹細胞や間葉系幹細胞の相互作用、加齢やホルモン変化の影響など、毛が周期的に生え変わるメカニズムはいまだ不明な点が多く、人体における毛周期は医学的にも極めて深淵な領域です。
すでに一部のクリニックでは臨床研究が始まっているとされますが、治療として確立するにはまだ時間が必要でしょう。実用化されれば、薄毛治療のゲームチェンジャーとなる可能性は高いといえます。
理美容室は「薄毛予防」に可能性
以上、医療分野を中心に薄毛治療の最新動向を整理しました。薄毛市場は今後も医療を中心に拡大していくとみられます。その一方で、かつらメーカーは男性向け市場の縮小を背景に、ファッション性を重視したレディスウイッグへと軸足を移しています。
理美容室にとっては、スキャルプマッサージやヘッドスパなど、薄毛予防を目的としたメニューに可能性があります。また「薄毛の悩みを最初に打ち明ける場所」として、医療関係者から評価されるケースも増えています。快感やリラクゼーションと結び付いたヘッドスパは、薄毛予防メニューとして今後さらに存在感を高めそうです。
※本記事は、2025年時点の情報をもとに構成しています。
