なぜ美容科は選ばれ続けるのか 専門学校入学者数が示す「美容師という職業」の変化

専門学校における美容科の人気は、近年上昇傾向が続いています。入学者数では介護科が依然としてトップを占めていますが、2位の美容科との差は縮小しています。令和7年度の「学校基本統計」によると、介護科の入学者数は前年より減少した一方で、美容科は女子・男子ともに増加しました。

美容科が安定した人気を保っている背景には、単なる「髪を切る仕事への憧れ」だけではなく、社会構造の変化や技術革新、さらには若者の価値観の変化といった複数の要因が重なっていると考えられます。美容師はもともと「人を美しくする」「おしゃれで、きれいな仕事」というイメージを持たれてきましたが、現在はそれに加えて職業としての意味合いも変化しています。ここでは、美容師という職業そのものの魅力以外に考えられる要因について整理します。

1.SNSによる「個人ブランディング」の可視化

かつては、カリスマ美容師と呼ばれる一部の著名人を除き、多くの美容師は「サロンの一員」「裏方」という側面が強い職業でした。しかし現在は、InstagramやTikTok、YouTubeといったSNSの普及により、個々の美容師が自ら情報を発信し、インフルエンサーとして活動できる時代になっています。実際に、多くの美容師が日常的に発信を行い、ヘアカットのビフォー・アフター動画が世界的に注目を集める例も珍しくありません。

おしゃれや美容に関心の高い若者にとって、美容師は自分のセンスやライフスタイルを発信し、数万人規模のフォロワーを持つ「表現者」として映っています。有名美容師がSNSを通じて技術や華やかな生活を発信することで、「自分も影響力を持ちたい」という動機付けが強化されている面もあります。

近年では、フォトシューティングや写真撮影、編集アプリの操作などを選択科目として取り入れる美容学校も増えており、表現者としての美容師を育成する教育環境が整いつつあります。

2.美容師免許の「汎用性」の拡大(トータルビューティー)

美容師免許は、単に髪を切るためだけの国家資格ではなくなっています。現在では「美容業界のプラットフォーム資格」としての価値を高めています。多くの美容学校が「トータルビューティー」を掲げ、ヘアに加えてメイク、ネイル、エステなどのスキルを同時に学べるカリキュラムを選択制で提供しています。

美容師がヘア以外の分野で就労する例は多くありますが、その逆は資格要件の関係から限定的です。特にアイラッシュ(まつ毛エクステ)は美容師免許が必須であり、専門職としての需要が非常に高い分野です。

さらに、ブライダル、テレビ・映画のヘアメイク、化粧品メーカーのビューティーアドバイザーなど、免許を基盤としたキャリアの選択肢が広がっている点も、若者にとって大きな魅力となっています。

3.働き方の多様化と独立ハードルの低下

美容業界には、かつて「徒弟制度」のイメージが強くありました。現在でもアシスタント制を採用するサロンはありますが、社会保険への加入など、労働環境は全体として改善が進んでいます。

また、独立開業に関しても大きな変化があります。以前は多額の借入をして店舗を構えるのが一般的でしたが、現在はシェアサロンや面貸しが普及し、借金をせずにフリーランスとして独立できる仕組みが整いました。将来の開業を見据えた「チャレンジ段階」としてこれらを活用する若手美容師も増えています。

業務委託という働き方を選ぶことで、副業を持ったり、自分のペースで働いたりすることも可能になり、柔軟なワークスタイルを実現しやすくなっています。こうした自由度の高い働き方へのシフトも、進路としての魅力を高めています。

4.AI・DX時代における「手に職」の再評価

ホワイトカラー職がAIに代替される不安が広がる中で、美容師のように「物理的な施術」と「対面コミュニケーション」を伴う仕事は、代替されにくい職種として再評価されています。

自動でヘアカットを行うロボット技術については、2023年頃に完成度の高い試作品が開発されたものの、費用対効果やリスク面への懸念から十分な投資を集められず、実用化・商品化には至っていません。仮に技術が完成したとしても、市場に普及する可能性は当面低いと見られています。

何より、顧客一人ひとりの骨格や髪質、好みに応じた提案、会話を通じた微妙なニュアンスの共有は、人間の美容師だからこそ可能な領域です。非定型で創造的な対応こそが、美容師という職業の本質的な価値といえます。

加えて、高齢化社会の進展により、訪問美容や介護美容といった福祉領域に近いニーズも拡大しています。シルバーマーケットの成長は、将来的な安定性という点でも評価されています。

5.早期の社会進出と即戦力志向

大学進学が一般化する一方で、4年間の学問よりも、2年間で国家資格を取得し、早く社会に出て自立したいと考える実利的な若者も増えています。美容業界は慢性的な人手不足にあり、専門学校卒業後の就職率は高水準を維持しています。

さらに「国家資格」という公的な裏付けがあることは、不透明な経済環境やAIの普及による職業不安の中で、本人だけでなく保護者にとっても大きな安心材料になっています。

まとめ

以上を総合すると、現在の美容科人気は、単なる職人養成ではなく、「美容というスキルを武器に、社会の中で自分をどう表現し、生きていくか」という、きわめて現代的なキャリア戦略の結果といえます。若者にとって美容師は、多機能なクリエイターであり、将来も続けられる仕事として評価されています。

理容師についても、近年は同様の評価が広がりつつあります。ただし、同じ「髪を切る仕事」であっても、若者の憧れ方には差があり、その違いが入学者数の差として表れています。若者に憧れられる職業像をどうつくるかは、これからの理容師に課せられた重要なテーマといえるでしょう。

多くの若者を引きつける美容業界ですが、すべての人が成功するわけではありません。参入者が増えれば競争は激しくなります。しかし、その競争は業界全体の活性化につながる側面もあります。厳しさと可能性の両方を併せ持つ点こそが、現在の美容業界のリアルな姿といえそうです。

【関連情報】令和7年度「学校基本統計」より

・入学者増が続く理美容分野
https://ribiyo-news.jp/?p=48860

・美容科、専門学校トップ目前か 専門課程 入学者数ランキング
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