世界最大級の市場調査企業、ニールセンIQ(NYSE:NIQ)は2025年9月、美容業界の最新動向をまとめたレポート「ステート・オブ・ビューティ2025」を発表した。
調査によれば、世界の美容市場は過去12か月で10%成長し、オンライン販売やウェルネス志向の高まりが業界構造を大きく変えつつあることが浮き彫りとなった。美容はもはや外見の改善にとどまらず、ライフスタイル全体を包含するカテゴリーへと進化している。

世界市場は10%成長、アジア太平洋が牽引
調査によると、美容関連商品の購買は経済的な圧力が強まるなかでも拡大を続け、消費者の購入回数は2%増加、1回あたりの支出額は8%増、購入点数も2.6%増となった。美容が日常生活に欠かせない存在となっていることが改めて示された。
地域別ではアジア太平洋が+14.3%と最も高い伸びを記録し、中国のスキンケアやヘアケア市場の拡大、さらに「ドウイン(中国版TikTok)ショップ」の49%成長が大きな原動力となった。北米(+9.6%)やラテンアメリカ(+10.4%)も力強い成長を見せた一方、欧州(+5.8%)は依然として安定的に推移し、西側市場の回復には時間がかかっている。
デジタル販売が急伸、店舗の9倍ペース
美容業界の成長を支えるもう一つの柱がデジタルシフトだ。オンラインでの美容製品売上は、実店舗の9倍という驚異的なペースで拡大している。地域別には北米が+21%、アジア太平洋が+20%、欧州が+10%といずれも2ケタの伸びを示した。特にブラジル、インド、インドネシアといった新興市場では、モバイルファーストの消費者行動やソーシャルコマースの普及が追い風となっている。
TikTokショップはすでに14市場で展開しており、2025年中には日本とブラジルにも拡大予定だ。デジタルを起点とした消費者との接点は今後さらに広がり、美容小売におけるデジタルファースト戦略は必須となる。NIQビューティー&パーソナルケア担当シニアバイスプレジデントのタラ・ジェームズ・テイラー氏は「ブランドはチャネルに依存しない一貫した顧客体験を提供しなければ競争に勝ち残れない」と指摘している。
ウェルネスと習慣で市場が64%拡大
「美容=外見」の枠を超え、セルフケアやウェルネスが業界の新たな成長エンジンになっている点も大きな変化だ。世界の消費者の50%が「5年前よりもセルフケアの重要性が増した」と回答し、44%は今後12か月以内にビタミンやサプリメントの摂取量を増やす意向を示した。さらに63%が睡眠の質を重視しており、ピローミストや睡眠サプリといった新カテゴリー製品が需要を押し上げている。
ブランド各社もセクシャルウェルネス、ストレス緩和、免疫強化など、隣接カテゴリーへの参入を強化している。NIQは、こうした動きによって美容市場の価値創出機会が64%拡大していると分析する。
「トゥイークメント」がスキンケア習慣を変える
また、非侵襲的な美容医療「トゥイークメント」の普及が、消費者のスキンケアルーティンを再定義している点も注目される。米国では35%の消費者が施術を受けた後にスキンケア習慣を見直すと回答し、より簡素化やコスト削減を重視する傾向が見られた。
国別の意識差も顕著だ。中国では47%が「スキンケアを補完するもの」と回答し、サウジアラビアでは25%が「従来のスキンケアに代替する」と考えている。フランスでは37%が「特定の悩みに限定的に使用」と答え、世界全体では29%が「補完的」とみなしつつ、30%は「必要ない」と懐疑的な見方を示した。
トゥイークメントはスキンケアに取って代わるものではなく、既存の習慣を再編し、消費者の選択肢を広げる役割を担っているといえる。
美容の定義拡張と今後の展望
「ステート・オブ・ビューティ2025」が示すのは、美容が境界を拡大し続けている現実だ。Eコマースの加速、ウェルネスの融合、パーソナライズされたルーティンの浸透など、業界はかつてないほどダイナミックな変化を遂げている。
ブランドや小売業者に求められるのは、デジタルの俊敏性を確保し、消費者中心のイノベーションを柔軟に取り入れることだ。カテゴリーの流動性を前提に、隣接領域へと踏み出す企業こそが新時代の主導権を握るだろう。
NIQは、美容業界の今後を「デジタルとウェルネスの融合による拡大期」と位置づけている。消費者の行動変化に即応し、体験価値を高めるブランドこそが、次の市場を切り開く存在となるだろう。

