時代は「ワンオペサロン」へ 変わる理美容業

これからの理美容業は、「ワンオペサロン」が一つの業態としてスタンダードになりそうです。なぜいま「ワンオペサロン」なのか、そしてワンオペサロンで成功するには、についてまとめてみました。

縮小する小規模サロンと拡大する専門店

DXの普及と個人発信の時代

近年、理美容業界を取り巻く環境は大きく変化しています。その大きな要因の一つがDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展です。SNSを通じて個人が集客できるようになり、自らの得意な技術やヘアスタイルを発信することが可能になりました。かつてはサロン企業が担っていた宣伝・広報活動が、今では個人単位で行えるようになったのです。

さらに予約から決済までネット上で完結するサービスが整い、個人サロンでも低コストで導入できる仕組みが広がっています。検索予約サイトや決済連携ツールの充実は、個人営業の大きな後押しとなっています。

働き方改革がもたらす構造変化

一方で、働き方改革の浸透はサロン企業の経営に重くのしかかっています。先進国に比べて遅れていた労働環境の改善が求められ、給与や労働時間、福利厚生、社会保険など、従業員を雇用するためのコストは増加の一途をたどっています。求人が思うように進まず倒産に至るサロンも増えており、負債1千万円以上の倒産件数は過去最多を更新しています。

また、サロンの中核を担うべき40代以降の技術者が早期に退職してしまうケースが多く、人材の流動化も課題です。本来ならば定年まで働き続けられる仕組みづくりが求められてきましたが、十分に実現されていません。結果として若手技術者の不足が常態化し、待遇改善が不十分なため離職者が増えるという悪循環に陥っています。

顧客層の二極化と消費の変化

顧客の動向にも注目すべき変化があります。理美容サービスを利用する人々は、大きく分けて「おしゃれに敏感な層」と「身だしなみ程度で満足する層」に二分されます。前者は20代を中心とする若年層で、近年は若い男性の利用も増えています。後者は中高年層に多く、年金生活者の増加とともに拡大しています。

また、長期化するデフレ経済と実質賃金の停滞は消費者の節約志向を強め、理美容サービスへの支出抑制につながっています。さらに美容家電の進歩が「理美容サービスを利用しない」という選択肢を後押ししており、業界全体の需要構造を変化させています。

独立開業の容易さとシェアサロンの広がり

理美容業は独立開業のハードルが低い業種といわれます。設備資金が少なく、仕入れコストも低いことから、自己資本が少なくても開業しやすい特徴があります。技術があれば誰でも独立可能なため、古くから供給過剰が常態化してきました。

近年では、シェアサロンの普及が独立をさらに後押ししています。従来の面貸しと異なり、予約から決済までをすべて個人で完結できる仕組みが整っており、責任は重いものの自由度も高い働き方が可能です。独立前のステップとしてシェアサロンを活用するケースも増えています。

多様化する業態と縮小する小規模サロン

現在の理美容業界は大きく三つに分けられます。第一に、少人数を雇用して経営する小規模サロン。第二に、おしゃれに敏感な顧客を対象にブランド力を持って展開するサロン。第三に、身だしなみを重視する顧客にリーズナブルな料金で応える専門店です。

昭和から平成にかけては小規模サロンが主流でしたが、雇用環境の変化によりその数は大幅に減少しています。ただし、高感度な顧客を抱え収益性の高いブランドサロンは今後も一定数存続するでしょう。一方、リーズナブルな料金を武器とする専門店は、節約志向の高まりを背景に拡大が予想されます。

ワンオペサロンの台頭

今後、最も注目されるのが「ワンオペサロン」の増加です。従業員を雇用せず、一人で経営から施術、情報発信までを担う形態が広がっています。夫婦二人で経営するサロンも含め、雇用リスクを回避した経営スタイルが拡大していくでしょう。

その背景には、DXの進展による個人発信の容易さと、サロン企業が高齢技術者を雇用し続けられない現実があります。店を持たずにシェアサロンを活用するフリーランス美容師も今後増えていくとみられます。

同時に完全予約制にすれば空いている時間に他業をすることも可能です。「ワンオペサロン」は働き方の多様化にふさわしい業態といえます。

個人ブランドの時代へ

理美容業は本来、客と技術者が一対一で向き合う仕事です。施術の最初から最後まで一人の技術者が責任を持って対応する点に価値があります。これからは、サロンという看板よりも、個々の技術者がいかに個人ブランドを確立し、情報を発信していくかが成功の鍵となります。

かつて「理美容の技術があれば食いはぐれはない」といわれた時代は過去のものです。これからの時代は、技術力に加えて情報発信力と経営センスが求められます。ワンオペサロンやシェアサロンで活躍する理美容師は、SNSやネットを駆使して自らの強みを発信し、顧客との直接的なつながりを築いていくことが不可欠です。

ワンオペサロンで成功するには

理美容業界は「人手不足」「働き方改革」「消費者の節約志向」という複合的な要因により、大きな転換期を迎えています。その中で注目されるのが、一人営業による「ワンオペサロン」です。従業員を雇用せず、自らの技術と経営判断だけで運営するスタイルは、時代に適応した選択肢として拡大しつつあります。しかし、ただ一人で店を切り盛りするだけでは成功は望めません。ここではワンオペサロンで成果を上げるための条件を整理します。

1.強みを明確化した個人ブランディング

ワンオペサロンでは「この人に切ってもらいたい」と思わせる魅力が必要です。

得意なスタイルや技術を打ち出す

SNSやウェブサイトで実績を発信する

写真や動画で技術力を可視化する

ブランド力がそのまま集客力になるため、自分の強みを明確にし、わかりやすく伝えることが成功の第一条件です。

2. DX活用による効率経営

予約・決済・顧客管理などをデジタル化すれば、時間と労力を大幅に削減できます。近年は低コストで使える予約管理システムやキャッシュレス決済が整備され、個人経営でも導入しやすくなっています。ワンオペだからこそ、業務効率化の徹底が収益を左右します。

3. 顧客体験の一貫性

受付から施術、会計、アフターフォローまでを一人で担うワンオペサロンは、顧客にとって「最初から最後まで同じ人に担当してもらえる安心感」を提供できます。この強みを最大限に生かすためには、接客マナーやカウンセリングの質を磨き、満足度の高い体験を積み重ねることが大切です。

4. 適切な価格設定と経営管理

従業員を雇わない分、経費は抑えられますが、それでも家賃や材料費は固定的にかかります。価格を安易に下げるのではなく、自分の技術やサービスの価値を踏まえて適正価格を設定することが必要です。また、収入が不安定になりがちなため、経費管理と資金繰りの意識も欠かせません。

5. シェアサロン・フリーランス制度の活用

近年はシェアサロンの普及により、店舗を持たずにワンオペで働ける環境が整っています。開業資金を抑えながら柔軟に働ける点は大きな利点です。独立前のステップとしてシェアサロンを利用し、顧客基盤を築いてから自分の店を持つケースも増えています。

6. 長期的な視点とセルフマネジメント

ワンオペサロンはすべてを一人で背負うため、体調不良や家庭の事情が直ちに経営リスクになります。長く続けるためには、無理のない働き方、体調管理、将来のキャリア設計が重要です。顧客との信頼関係を維持しつつ、自分自身も持続可能な働き方を選ぶことが成功につながります。

まとめ

ワンオペサロンは、理美容業の新しいスタンダードになりつつあります。しかし成功するためには、「技術+個人ブランド+経営力」を兼ね備えることが不可欠です。単なる「一人営業」ではなく、「一人だからこそ提供できる価値」を磨き上げたサロンこそ、これからの時代に生き残る存在となるでしょう。