原初「理容師法」(昭和22年制定)

「理容」とは「理髪」と「美容」のこと

「理容師法」は、昭和22年12月24日、第一回国会(特別国会)で制定されました。

第一条において、「理容」とは「理髪」および「美容」をいうと定義されており、現在の理容師法と美容師法の両方を内包する内容となっています。

当時の「理容」という言葉には、現在の「美容」に近いニュアンスがあったことがうかがえます。「理髪」は「頭髪の刈込、顔そり等」、「美容」は「パーマネントウエーブ、結髪、化粧等」の手段・技術を用いることと定義されています。「理髪」は今の理容とほぼ同義ですが、「美容」は結髪も含まれており、当時が和髪から洋髪への過渡期だったことがわかります。

昭和10年代には、電髪(パーマネントウエーブ)の普及とともに洋髪が女性に広まりました。日中戦争から太平洋戦争の最中にも洋髪化は進みましたが、戦後もしばらくは和髪の女性も少なくありませんでした。この時代の「美容」には、現在の美容技術と「髪結」の要素が混在していたのです。

理容師法が一足早く制定された理由

理容師法は、日本国憲法が公布された翌年に制定され、生活衛生業の中でも最も早い制定例となりました。翌年に制定されたのは、興行場法、旅館業法、公衆浴場法などで、クリーニング業法は昭和25年に制定されています。

理美容業、浴場業、クリーニング業は、いずれも生活に密着したサービス業ですが、中でも理容業の法律がいち早く整備された背景には、当時のGHQの意向が強く影響していたといわれています。

戦前、国民生活と思想を管理していた巨大官庁・内務省はGHQの指導で解体され、衛生業務は厚生省に移管されました。しかし、それだけでは理容師法の早期制定を説明しきれません。

実は、戦前すでに理髪営業取締規則(名称は自治体によって異なる)が40を超える府県の警察によって定められており、一部自治体では資格試験も実施されていました。日本国憲法の公布により、こうした取締規則が無効となり、国として新たな法律の制定が必要になったと考えられます。

また、理容師の管理主体を都道府県知事としたのは、戦前の地方警察による取締規則の流れを汲んでいるためです。

昭和22年に制定された理容師法は、その後何度も改正され、昭和26年には理容師美容師法として改正されます。このとき、「理髪」が「理容」に名称変更され、理容師・美容師が営業できるのはそれぞれ「理容所」「美容所」に限定されました。さらに昭和28年には通信教育制度が設けられます。

昭和32年には、理容師法と美容師法が分離し、それぞれ独立した法律となり、現在に至るまで幾度も法改正が行われています。

「理容=男性」「美容=女性」は暗黙の了解?

原初の理容師法、そして現在の理容師法・美容師法にも、法文にジェンダーに関する記述はありません。しかし日本では、長らく「理容=男性客」「美容=女性客」という暗黙の了解が存在してきました。

その代表的な例が、「53年通知」と呼ばれる行政通知で、美容師による男性のカットや、理容師による女性へのパーマネント施術を禁じた内容です(現在は撤廃されています)。

このような性別による区分は、江戸時代の髪結床や女髪結から続く伝統的な職業文化に由来するものです。明治以降も継続され、昭和期にも色濃く残っていました。

しかし、現代はジェンダーフリーが浸透し、男性が美容室を利用することも一般的となりました。理容業の象徴だった「顔そり(シェービング)」の需要も減少しつつあります。

理容室と美容室の区分は今も業態として存在していますが、施術内容やサービスの重なりが大きく、両者の業務範囲の違いは薄れつつあります。もはや「理容=男性」「美容=女性」という前提は時代遅れともいえるでしょう。

原初「理容師法」(昭和22年制定)

法律第二百三十四号(昭二二・一二・二四)

◎理容師法

第一条 この法律で理容とは、理髪及び美容をいう。  
 この法律で理髪とは、頭髪の刈込、顔そり等の方法により、容姿を整えることをいう。 この法律で美容とは、パーマネントウエーブ、結髪、化粧等の方法により、容姿を美しくすることをいう。  
 この法律で理容師とは、理髪師及び美容師をいう。  
 この法律で理髪師とは、理髪を業とする者をいい、美容師とは、美容を業とする者をいう。  
 この法律で理容所とは、理髪所及び美容所をいう。  
 この法律で、理髪所とは、理髪の業を行うために設けられた施設をいい、美容所とは、美容の業を行うために設けられた施設をいう。

第二条 左に掲げる者は、郡道府県知事の免許を受けて、理髪師になることができる。
 一 学校教育法第四十七条に規定する者で、厚生大臣の指定した理髪師養成施設において一年以上理髪師たるに必要な知識及び技能を修得した者
 二 学校教育法第四十七条に規定する者で、理髪師たるに必要な知識及び技能に関して都道府県知事が行う理髪師試験に合格した者

第三条 左に掲げる者は、都道府県知事の免許を受けて、美容師になることができる。
 一 学校教育法第四十七条に規定する者で、厚生大臣の指定した美容師養成施設において一年以上美容師たるに必要な知識及び技能を修業した者
 二 学校教育法第四十七条に規定する者で、美容師たるに必要な知識及び技能に関して都道府県知事が行う美容師試験に合格した者

第四条 都道府県知事は、前二条に規定する理髪師試験及び美容師試験を夫々毎年一回以上行わなければならない。  
 この法律に定めるものの外、理髪師試験及び美容師試験に関して必要な事項は、省令でこれを定める。

第五条 都道府県に理容師名簿を備え、理容師及び美容師の免許に関する事項を登録する。
 前項の登録については、手数料として三百円を国庫に納めなければならない。  
 前二項に定めるものの外、理容師の免許及び登録に関して必要な事項は、省令でこれを定める。

第六条 理髪師の免許を受けた者でなければ、理髪を業としてはならない。  
 美容師の免許を受けた者でなければ、美容を業としてはならない。

第七条 理容師の免許は、精神病者又はてんかんにかかつている者は、これを与えない。

第八条 理容師は、理容の業を行うときは、左に掲げる措置を講じなければならない。
 一 皮ふに接する布片及び器具は、これを清潔に保つこと。
 二 皮ふに接する布片は、客一人ごとにこれを取りかえ、皮ふに接する器具は、客一人ごとにこれを消毒すること。
 三 その他都道府県知事が定める衛生上必要な措置

第九条 理容師は、毎年二回以上結核、トラホーム、皮ふ疾患等の疾病の有無につき行政庁の行う健康診断を受けなければならない。

第十条 都道府県知事は、理容師が第七条に規定する者に該当するとき、又は第八条若しくは前条の規定に違反したときは、その免許を取り消し、又は期間を定めてその業務を停止することができる。

第十一条 理容所を開設しようとする者は、省令の定める様式により、理容所の位置、設備等を都道府県知事に届け出なければならない。届け出た事項を変更し、又は理容所を廃止した場合も、同様とする。

第十二条 理容所の開設業者は、理容所につき左に掲げる措置を講じなければならない。
 一 常に清潔を保つこと。
 二 消毒設備を設けること。
 三 採光、照明及び換気を充分にすること。
 四 その他都道府県知事が定める衛生上必要な措置

第十三条 都道府県知事は、必要があると認めるときは、当該吏員に、理容所に立入、第八条又は前条の規定による措置の実施の状況を検査させることができる。

 前項の規定により当該吏員に立入臨検検査をさせる場合においては、これにその身分を示す証票を携帯させなければならない。

第十四条 都道府県知事は、理容所の開設者が第十二条の規定に違反したときは、期間を定めて理容所の閉鎖を命ずることができる。

第十五条 左の各号の一に該当する者は、これを五千円以下の罰金に処する。
 一 第六条の規定に違反した者
 二 第十条の規定による業務の停止処分に違反した者
 三 第十一条の規定による届出をしなかつた者
 四 前条の規定による理容所の閉鎖処分に違反した者

第十六条 第十三条第一項の規定による当該吏員の検査を拒み、妨げ、又は忌避した者は、これを千円以下の罰金に処する。

第十七条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して第十五条第三号若しくは第四号又は前条の違反行為をしたときは、行為者を罰する外、その法人又は人に対しても、各本条の刑を科する。

附 則

第十八条 この法律は、昭和二十三年一月一日から、これを施行する。

第十九条 この法律施行の際現に都道府県知事の免許、許可その他の処分を受けて理髪又は美容を業としている者は、これを第二条又は第三条の規定による理髪師又は理容師の免許を受けた者とみなす。

 この法律施行の際現に都道府県知事の免許、許可その他の処分を受けないで美容を業としている者は、第六条第二項の規定にかかわらず、この法律施行の日から三年間を限り、その業務を継続することができる。

(厚生・内閣総理大臣署名)